ロルファーとしての成長
日本におけるロルフィング®SI
教育を通して見た、ひとつの地域の発展
田畑浩良
認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフムーブメント®インストラクター
編集部より:確立された地域で、母国語でトレーニングを受けたロルファー――たとえばコロラド州ボールダーのロルフ・インスティテュート・オブ・ストラクチュラル・インテグレーション(RISI)で学んだ人――には、多くの同僚がこの職業を学ぶために払ってきた余分な努力が、なかなか想像できないかもしれません。言葉の壁に直面したり、自分たちでトレーニングを組織しなければならなかったりしたのです。世界のあちこちで一人で開業しているロルファーは大勢いますが、ある地域を盛り上げ、この職業を根づかせて成長させるには、地元からの大変な努力と献身が必要です。日本でのこの職業の発展をたどる本稿は、そのことをよく物語っています。
黎明期
2000年代初めに日本でロルフィング・ストラクチュラル・インテグレーション(SI)のトレーニングが開かれる以前、日本で開業しているロルファーはわずか数人でした。日本人として初めてロルファーに認定されたのは幸田良隆氏で、1987年から開業しています。幸田氏と、1990年から開業しているニュージーランド出身のクリスティン・ファリスは、ロルフィングのトレーニングを目指す日本人の第一世代に刺激を与えた中心的なロルファーでした。幸田氏やファリスと同じく、この世代はトレーニングのために海外へ行かなければならず、ときには通訳の同行費用も自分で負担しました。こうした障壁のため、日本でのロルフィングという職業の成長はゆっくりとしたもので、日本人ロルファーは1996年に1人、1997年に1人、1998年に1人、2000年に2人と、少しずつ増えていきました。
最初の基礎トレーニング
1998年、ボールダーでのユニットIIIのクラスで、アシスタント講師のジョナサン・マーティンが、日本で――アジアで初めての――ロルフィング・トレーニングを開く可能性について話してくれました。私たちは、5年以内にユニットIを開くことを思い描きました。翌年、ロルフィングのセッションを受けた体験に心を動かされた安田登氏と中村直美氏が、東京でトレーニングをコーディネートしてほしいと私に頼んできました。ロルファーになりたいというお二人の情熱に励まされ、私たちは力を合わせてクラスを準備しました。私はクラス・コーディネーター兼アシスタント講師としてRISIとの連絡を担い、お二人は受講生への情報連絡と経理を担当しました。そしてついに2001年、強い意欲をもつ人々がユニットIに集まり、マーティンとジョン・シュウィーが喜んで東京に教えに来てくれました。最終的に、多くの人の協力がこの第一歩の達成につながりました。
次に、私のロルフムーブメントの講師の一人だったキャロル・アグネセンスが、ユニットIIを教えに来てくれました。このトレーニングに彼女がいたことが、2005年の日本初のロルフムーブメント・トレーニングの種をまいたのだと、私は個人的に思っています。ユニットIIとIIIを通して、受講生たち自身がコーディネートと会計という大変な仕事を担いました。
この最初のトレーニングは2002年に修了し、12人のロルファーが認定されました。何人かのロルファーの地道な開業活動による中心的な支えに加えて、日本で最初のロルフィング・トレーニングの土台づくりに役立った鍵となる要素が、いくつかあったと私は考えています。
・潜在的な受講生の蓄積――自分自身のロルフィング体験が、人生やキャリアを変えたいと思うほど意味のあるものだった人々。
・ロルファーのタッチを学び、体験する機会。それが、ロルファーを目指す動機になりました。こうした機会には、1990年代のジム・アッシャーによるクラニアル(頭蓋)のワークショップや、リズ・ガジーニのワークショップがありました。
・ソマティック・エクスペリエンス®(および後述するロルフムーブメントのセッション)の影響を受けた、穏やかな介入によるロルフィング・セッションを受ける機会が増えたこと。多くの日本人は、非侵襲的で繊細なアプローチを好むからです。
・ロルフムーブメントのセッションを受けられたこと。1999年から日本には2人のロルフムーブメント・プラクティショナーが常駐していました。クライアントの役に立っただけでなく、潜在的な受講生がロルフィング・トレーニングの受講要件を満たすことにもつながりました。
継続的なトレーニングのための基盤づくり
この最初の取り組みのあと、私たちの地域には、国内でのトレーニングによって成長していくための流れができました。ここでもまた、ロルファーになりたいと願うロルフィングのクライアントが名乗りを上げ、次の基礎トレーニングの原動力となりました。大貫毅郎氏です。大貫氏がトレーニングの基盤を整え、2004年には新たに承認された日本ロルフィング協会(JRA)¹がコーディネートの役割を引き継ぎました。2005年の次のユニットIの開催では、最初の国内トレーニングの修了生である扇谷孝太郎氏や溝辺英子氏らが、ボールダーのトレーニングを修了した廣瀬寬始氏と協力して、中心的な役割を果たしました。クラスの受講を待つクライアントを抱え、その人たちによい学びの体験をしてほしいという思いから動いた、これら新しいロルファーたちのエネルギーと献身に、私は深い敬意を抱いています。この2回目の基礎トレーニングが2006年に東京で修了すると、加藤秀典氏がJRAに3回目のトレーニングの開催を依頼し、今度は2008〜2009年に京都で開かれました。
こうして日本では、これまでに3回の基礎トレーニングが行われ、初期のものはいずれも、潜在的な受講生の求めに応じて開催されました。この土台の上に、現在4回目の基礎トレーニングが進行中です。日本でロルフィングSIが職業として発展し、安定した個人開業を営むプラクティショナーが増えるにつれて、受講者の募集も容易になってきているようです。安田登氏や斎藤瑞穂氏の著書でロルフィングSIが数多く紹介され、ロルファーによる雑誌記事もいくつか出たことで、近年は私たちの仕事がより知られるようになりました。ロルファーによる入門セミナーの貢献もありました。
ムーブメントの認定
2010年6月現在、日本には82人のロルファーがいます! しかも、その55%がロルフムーブメント・トレーニングを修了しており、これは世界平均の25%の2倍以上です。ムーブメント認定の半数は、2005年と2007年に東京で行われたキャロル・アグネセンスによる2回のムーブメント・トレーニングによるもので、この2つのクラスから合わせて23人のロルフムーブメント・プラクティショナーが誕生しました。最初の基礎トレーニングの修了生のほとんども参加しています。アグネセンスのムーブメントのワークへの視点とその体現は、とくに一部の日本のロルファーの心に響き、アグネセンスのトレーニングを体験していなかったら、ロルファーとして仕事を続けていなかったかもしれないと私に語った人もいます。ムーブメントの認定後も、日本人のロルフムーブメント・プラクティショナーによる少人数のワークショップに参加し続けた人もいました。
ロルフィングの継続教育
JRAは協会として発展の途上にあり、これまでは基礎トレーニングとムーブメント・トレーニングの基盤づくりに重点が置かれてきました。現時点では、メンタリングやクリニックのような正式な継続教育プログラムはなく、アドバンスト・ロルフィング・トレーニングもまだ開かれていません。日本で開かれる継続教育のクラスは多くないため、日本のロルファーにとって、十分な継続教育の単位を取得し、基礎トレーニングから7年以内にアドバンスト・トレーニングに参加するのは容易ではありません。
技術を磨きたいと願うロルファーが増えている今、私たちの地域では、継続教育ワークショップやさらなるトレーニングを開く機が熟しています。JRAが活かした機会の一つは、各基礎トレーニングと各ムーブメント・トレーニングの講師が来日している間に、継続教育ワークショップを開くことでした。ワークショップのテーマは、講師が教えたい内容と受講生の要望とを調整して決められました。
その他のワークショップ
ほかの継続教育の機会は、ロルファーが個人でさまざまなワークショップや、いくつかの勉強会を企画することから生まれています。たとえば、日本人初のロルファーである幸田良隆氏は、ロルファーのアッシャーやゲール・オールグレン、オステオパスのトム・シェイバーなど、多くの講師を招いてワークショップを開き、日本のロルフィング・コミュニティに大きく貢献してきました。一方、日本人の心理療法家の企画により、日本で初めてのソマティック・エクスペリエンスのトレーニングも始まりました。
国内在住のロルファーによる、手づくりの継続教育の機会もあります。ロルフムーブメントやクラニオセイクラル・セラピーについての勉強会や、日本人のオステオパスによる関節の問題についての勉強会などです。
地元の講師を育てる
私は、ロルフムーブメントの講師になるためのトレーニングを受けてきました。その過程では、さまざまなトレーニングでアシスタントを務めるとともに、講師陣の監督のもとで単独のワークショップを教えました。日本でのアグネセンスによる2回のムーブメント認定トレーニングでアシスタントを務めたほか、ユニットIIの「ロルフィングの原則」の部では、2006年に東京でジェーン・ハリントンと、2008年にボールダーでレベッカ・カーリ=ミルズ、ケヴィン・マッコイ、アグネセンスと、2009年に京都でレイエル・キーンと、アシスタントを務めました。また、2008年に京都で行われたマリウス・ストライドムのユニットIでは、ムーブメントを教えました。
講師トレーニングの最終段階は、2009年に東京で行った私の単独ワークショップで、ロルファーと、ムーブメントのダブル認定を受けたロルファーを合わせて14人が参加しました。このワークショップはJRAの主催で、日本語で教えられた初めてのロルフィングのワークショップとなりました(京都でのユニットIIIの指導の合間に来てくれた監督講師ペドロ・プラドのために、通訳がつきました)。これをもって、私は2009年12月にロルフムーブメント講師として承認されました。
12年前にジョナサン・マーティンと話していたころには、こうした発展は想像もできませんでした。すべての講師の支え、とりわけメンターとしてのアグネセンスの絶え間ない尽力に感謝しています。さまざまなクラスに参加してくれたすべてのロルファーにも感謝します。これからは、ロルフムーブメントのワークショップを通して、一人ひとりのロルファーが技術を磨き、しっかりとした個人開業を築いていけるよう、地元のコミュニティを支えていきたいと思っています。地元に講師がいることが、私たちの地域のさらなる成長を後押しすることを願っています。ほかの日本人ロルファーが講師トレーニングに応募するのを見られたら、とても嬉しく思います。
より広いロルフィング・コミュニティと分かち合う機会があることも楽しみです。アグネセンスとカーリ=ミルズとのムーブメント・トレーニング以来、私は「イールディング」と呼ぶムーブメントの介入を発展させてきました。来年、アグネセンスと私は米国でこれをワークショップとして紹介し、本誌の今後の号でも紹介する予定です。
結びと謝辞
本稿は、日本での私自身の経験と、ロルフムーブメント講師になる過程というレンズを通して書いたものです。舞台裏でJRAを支える設計者であり、本稿のために情報を提供してくれた扇谷孝太郎氏に、特に感謝します。本稿からも伝わるとおり、日本におけるロルフィングSIの発展には本当に多くのロルファーが貢献してきました。ここで一人ひとりの努力を挙げられなかった方々には、お詫び申し上げます。
初出:Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, December 2010(日本語訳)。人数・年などは掲載当時(2010年)のものです。
論稿
Agneessens, C., & Tahata, H. (2012). Yielding: Engaging touch, presence, and the physiology of wholeness. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 40(1), 10–16.
イールド、タッチ、プレゼンス、細胞・細胞外マトリックスの観点を結びつけた論稿。
Tahata, H. (2012). Case studies with yielding: Application for joint/lordosis involvement. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 40(1), 31–33.
関節や脊柱前弯に関わる事例を通した、イールドの応用報告。
Tahata, H., & Hoff, A. (2014). The experience of working in post-disaster Fukushima. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 42(1), 10–12.
東日本大震災後の福島で、同僚のロルファーとともに行った支援ワークショップとセッションの報告。
Tahata, H. (2014). Case studies with yielding, part 2: Application for octogenarians. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 42(2), 13–16.
80歳代のクライアントに対するイールドの応用事例。
Tahata, H. (2015). [Contribution to “Ask the faculty: Current fascinations and obsessions”]. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 43(1), 5.
施術者の知覚が場の変容をどのように生み出すか、という探究についての短い回答。
Tahata, H., & McConnell, K. (2015). Rolf Movement® faculty perspectives: The art of yield―An interview with Hiroyoshi Tahata. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 43(3), 3–4.
Kathy McConnellによるインタビュー。
Tahata, H. (2018). [Contribution to “Ask the faculty: About feet”]. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 46(1), 4–6.
足を通した接地への信頼、イールドと支持の回復についての症例報告。
Tahata, H. (2018). Working with ma: Further refinement of the yielding approach through time, space, and intersubjectivity. Structural Integration: The Journal of the Rolf Institute®, 46(1), 44–51.
時間・空間・間主観性を通して、イールドのアプローチを「間(ma)」へと展開した論稿。
Tahata, H. (2019). The superficial layer as sensory envelope: New perspectives from the art of yield about the ‘superficial’ sessions of the Rolfing® series. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 47(2), 37–42.
表層を感覚的な包絡として捉え、細胞科学とイールドの観点から10シリーズの表層セッションを考察した論稿。
Tahata, H. (2020). [Contribution to “Ask the faculty: Start at the beginning with breath”]. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 48(2), 7–8.
パンデミック下の呼吸と安全感、間(ma)を用いたオンラインセッションについて。
Tahata, H. (2024). Space, ground, and gravity: Tuning our practitioner body to suitable tone and ma sensitivity. Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute®, 52(1), 34–49.
肚を通した内受容感覚、適切なトーン、間(ma)への感受性、共鳴するテンセグリティと臨床事例を扱う論稿。
口頭発表
Working with Ma through Rolfing Structural Integration – New Perspectives of Manual Intervention. 口頭発表、International Conference on Traditional Medicine and Ethnomedical Research(ICTM 2019)
Case Studies of Rolfing Structural Integration Incorporated with the Art of Yield. 田畑浩良・下津浦康裕(M.D.)、口頭発表、European Congress of Integrative Medicine(ECIM 2018)
研究員時代
Tsuji-Takayama K, Tahata H, et al. Interferon-gamma enhances megakaryocyte colony-stimulating activity in murine bone marrow cells. J Interferon Cytokine Res. 1996;16(9):701–8.
Tsuji-Takayama K, Harashima A, Tahata H, et al. IFN-gamma in combination with IL-3 accelerates platelet recovery in mice with 5-fluorouracil-induced marrow aplasia. J Interferon Cytokine Res. 1996;16(6):447–51.
ヒト細胞培養由来の巨核球増強因子に関する研究. 日本生化学会大会(仙台)『生化学』第67巻・第7号(1995年)
US Patent 5,910,303(US5910303A)Agent for promoting the platelet and the leukocyte productions(血小板および白血球の産生促進剤)発明者:Kazue Takayama, Akira Harashima, Tsunetaka Ohta, Noboru Izumi, Hiroyoshi Tahata, Masashi Kurimoto
著書
片山洋次郎・田畑浩良・藤本靖(2024)『共鳴するからだ』晶文社
整体・ロルフィング・身体の専門家の3人が、「空間身体学」の視点から、からだと場の共鳴について語った本。